カブリダニについて

外観 (picture)

 カブリダニの体長は,体長0.4mmほど,光沢のある乳白色,黄色,橙色をしたダニであり,葉上のハダニ類(ナミハダニ,カンザワハダニ,リンゴハダニ,ミカンハダニなど)と肉眼で区別することができる.20倍程度に拡大することができる実体顕微鏡(またはルーペなど)で観察すれば,その外観はさらに明確になり,形態的にハダニ類と区別することが可能になる.ただし,実体顕微鏡でカブリダニの種を識別することはできないので,(1)大きさが0.4mmぐらいで,(2)体色が光沢のある乳白色,黄色,橙色で,(3)歩行が早い,などの基準に合致した個体をプレパラート標本にして,100〜400倍程度に拡大することができる位相差顕微鏡または微分干渉顕微鏡で観察する.

発育ステージ (development)

 カブリダニは,卵,幼虫,第1若虫,第2若虫を経て,雌成虫または雄成虫に発育する.各発育ステージは,脚の数,胴毛の配列,周気管の長さなどによって識別される.第2若虫では腹面の毛の配列で雌雄を区別できる場合がある.ちなみに,カブリダニの同定には雌成虫が使用されるので,発育ステージの識別も重要である.

分類 (classification)

 カブリダニの最初の記録は,1839年,Kochによる,Amblyseius obtusus,Amblyseius similis,Amblyseius pallens,Amblyseius ovalis,Gamasus vepallidus の報告である.その後, Typhlodromus pyri(1857年, Scheuten),Phytoseius plumifer(1876年, Canestrini and Fanzago),Seius(Seiulus) hirsutigenus(1887年, Berlese),Amblyseius (Iphiseius) degenerans(1889年, Berlese)などが新種として報告された(Chant, 1992).1900年代前半の新種報告数はそれほど多くなかったものの,1950年代に入って農業現場におけるカブリダニの有用性が見いだされると,基礎および応用研究が活発となり,報告される新種も約450種(Chant, 1965),約1000種(Tanigoshi, 1982),1675種(Chant, 1992),2250種(de Moraes et al., 2004),2692種(Prasad, 2012),2709種(Demite et al., 2014)と増加した.

 これらの新種は,アフリカ(1675種の16.7%),北アメリカ(15.7%),インド・パキスタン (10.7%),ロシア(10.2%)などの地域を中心に発見され(いずれも,1989年までに記載された1675種における割合(Chant, 1992)),Abbasova, Athias-Henriot, Beglyarov, Chant, Collyer, De Leon, Denmark, Ehara, El-Banhawy, Evans, Gupta, Karg, Kolodochka, Kreiter, McMurtry, Moraes, Muma, Ragusa, Schicha, Swirski, Ueckermann, Wainstein, Wu らの地道な研究により新種として報告された(Prasad, 2012).

 報告される種数に応じて分類体系も整理され,近年提唱されているダニ亜綱(Acari)の高次分類体系 (Krantz & Walter, 2007)では,胸穴上目(Parasitiformes),トゲダニ目 (Mesostigmata),タンバントゲダニ亜目(Monogynaspida),ヤドリダニ団(Gamasina),ワクモ亜団(Dermanyssoidea),カブリダニ上科(Phytoseioidea)にカブリダニ科(Phytoseiidae)として位置づけられる(和名は,安部ら(2009)による).カブリダニ科の下位分類群としては,胴毛の配列や各種形態形質の比較により3亜科(ムチカブリダニ亜科ホンカブリダニ亜科カタカブリダニ亜科)に大別され,102属に分類される体系(Chant & McMrtry, 2007)が主流となりつつある(Demite et al., 2014).属や種の近縁関係を理解するため,族(tribe),亜族(subtribe),亜属(subgenus),種群(species group, species subgroup, species complex)などを設ける分類体系(Chant & McMurtry, 2003ab, 2004ab)は,必ずしも,すべての分類学者に受け入れられていない.

 報告された種を新種として受け入れられない場合もある.例えば,報告された新種の20-25%を異物同名(Synonym)と推定する研究(Chant, 1992)や,いくつかの分類群では複数の姉妹種を構成すると推定する研究(Congdon & McMurtry, 1985; Beard, 2001)があり,新種の報告には混乱が残る.現在,これらの混乱を解消するため,塩基配列を利用した系統推定の研究(Okassa et al., 2010など)や,塩基配列を利用した種の識別および証拠標本の作製を前提とするDNA抽出法(Tixier et al., 2010)などの研究が進められている.

 日本では,1958年に,江原昭三博士が,ヤマトカブリダニ (1MB)Scapulaseius japonicus)を新種,ケナガカブリダニ (0.4MB)Neoseiulus womersleyi)とイチレツカブリダニ (1.3MB)Euseius finlandicus)を本邦初記録として報告し(Ehara, 1958),2009年までに59種を新種,31種を本邦初記録として報告した(江原・後藤, 2009).1972年以降,日本におけるカブリダニの種数は1年に1種のペースで増加し(豊島ら, 2013),2009年以降も複数種が追加され(Amano et al., 2011; Ohno et al., 2012; Toyoshima et al., 2014; Toyoshima et al., 2016),今後も未記録種が発見される可能性は大きい.

文献